アキコマ純情〜あきたこまち17歳文學〜




それは、三時間目の休み時間に始まった。

私の隣には、一人の男子生徒が机につっぷして寝ていた。

この時間帯は私も眠くなる時間だったし、周りも同じだったらしく、寝ている人の姿が多く見られた。

が、もちろんそうじゃない人もいる。

私と仲がいい彼女は、結構イタズラ好きなところがある。

彼女は私のところに来ると、私がいつも持ち歩いている筆ペンを貸してほしいと言ってきた。

何に使うのだろうと思ってみていると、なんと隣で寝ている男子の爪に筆ペンの先をあてがった。

「ちょ、何してんの!?」

「イタズラ~」

(わかるけど!それはわかるけども!!)

「それは流石に…」

私がそう言っても、彼女は「大丈夫、大丈夫♪」といって聞かず、全ての指の爪を真っ黒に塗り潰してしまった。

(流石にこれはまずいでしょ…)

そう思っていると、四時間目を告げるチャイムが鳴った。

彼は真っ黒になった自分の爪を見て、どんな反応をするだろう。

心のどこかで、その状況を楽しんでいる自分がいた。

教室に先生が入ってきて、
「はい、号令!」
と声をかけた。
「起立!」
生徒の号令がかかった。

…と同時に彼が目をさまし、のろのろと起立した。

私は彼を見ないようにした。

「…ぅわっ…!?」

途端、イタズラをした彼女が笑った。

それで、彼はすぐに犯人が彼女であると分かったらしい。

「おい、これはないよ…」

彼の途方にくれたような言い方が面白くて、わたしもつい笑みを漏らした。

「これ何で塗ったの?」

「私の筆ペン」

「全然気づかなかった…」

(嘘ぉ…)

と思って、試しに自分の爪に筆ペンを当ててみた。

「あ、感覚無い…」

全く感覚がなかった。
それはもうビックリするくらい。

「まあ、墨だから水で洗えばすぐとれるよ」

私がそう言っても、彼はしばらく気にしていた。

そして昼休み。

彼の爪はすでに綺麗になっていた。
とりあえず、良かった良かったと思い、いつもの席に座り昼食をとった。

目の前の子が、蜜柑を取り出して皮を剥き始めた。
そして唐突に何か思い出したのか、急に席を立って蜜柑を机に置いたまま、教室を出ていってしまった。

すると、その隣の子が、何やらニヤニヤしながら、いなくなった彼女の弁当袋の中からフォークを取り出すと、それを置いていかれた蜜柑に刺した。

「…え?」

何をするかと思えば、目の前で理解不能な行動をされて、少しばかり戸惑った。

「私はこの光景に対してなんてリアクションをとったらいいの?」
「さあ」
即答。

しかしだんだんと、誰も座っていない机にある、皮が剥かれた蜜柑に普通は刺さることなど無いだろうフォークが刺さっている光景が、なんだか物凄くシュールに感じて、急に笑いが込み上げてきた。

すると、私の笑いに誘われたらしく、一緒にいた二人も笑い出した。

そんな、笑い転げている私達のところに、その席の本人が戻ってきて、机の上の光景を見た時の顔は、なんとも言えない呆れたような困ったような、微妙な顔をしていた。

別に私がイタズラをしたわけではないのだが、イタズラのための筆を貸したり、ついつい笑ってしまったりというちょっとした加担感があり、爪を気にする彼や微妙な顔をした彼女見て流石に少し申し訳なく思ったアキコマ純情。



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