アキコマ純情〜あきたこまち17歳文學〜




「ねーねー!」
朝、私の顔を見るなり彼女は目をキラキラさせて私に駆け寄ってきた。
「お…おはよ。何?」
朝からの彼女のテンションの高さに驚いた。
「おはよ!ね、これ見て!」
そう言うと、彼女は左の手のひらを上にして私の顔の前に突き出した。
なんだろうと思いつつ、突き出された手を見た。
「何これ?」
手首に赤と青のボールペンで線が描かれていた。
「どう?」
…どうって言われても…。
…あ、あー。なるほど。
「これ、リスカに見せようとしたの?」
とてもそうは見えないが、線の位置といい、赤と青を使って血っぽさを出そうとしたところといい、たぶんそうだと思った。
「そう!分かる!?」
返答に困った。
「分かるには分かるけど…。…微妙?」
とたん、彼女がシュンとした。
(…何故シュンとした!?)
いや、彼女が求めていたのはきっと
「どうしたのそれ!?え、ボールペン!?すごっ!!」
みたいな反応だったのは分かる。
けど、朝だったしテンションがそんなに高くないときに、あんな低クオリティな偽傷を見せられてもいまいち盛り上れなかったのが本音だった。

「いや、あのね。そんなにシュンとしなくてもいいじゃん。」
とりあえずこのままでは今日彼女と話しずらくなることが予想されるため、私は慰めにかかった。
が、彼女からの返答は思ってもみないものだった。
「ふん!いいもん!帰りまでに生傷みたいな痛々しい傷描けるようになるもん!!」
「お、おぉ。頑張ってね…?」
変なことにはまりこんだものだと思った。

二時間目の休み時間。
目の前に、指が来た。
「これは?」
彼女の声だった。
あぁ。
今度は指に描いたのか。
「んー…。」
朝よりはそれっぽくなっていたが、左手の人差し指に描いた傷は、まだボールペンで描いたと分かるものだった。
「まだまだかな。」
彼女は悔しそうに席に戻っていった。

三時間目の休み時間。
「ん。」
指が机の上に置かれた。
今度は親指だった。
「あ、うまい。」
親指には、『治りかけの切り傷』があった。
「ほんと!?」
「うん。なんか治りかけの切り傷みたい。」
素直にそう言ったが、途端、彼女の顔に不服そうな表情が浮かんだ。
「ん?」
「治りかけか…。」
彼女はそのまま席に戻ってしまった。
治りかけでは不服だったらしい。

昼休み。
いつも彼女と友達二人と一緒に机をくっつけて昼食をとるため、机を移動させようとしていたところに…。
「ちょ、これよくない!?」
彼女が左手の中指に描いた傷を見せに来た。
「ご飯食べるときくらい傷から離れようよ(笑)」
私は半分呆れながらも傷の出来ぐあいを見た。
「…おお…。」
「どう!?」
うん。傷だ。
紙かカッターかで切ってすぐの状態のような切り傷が、そこにあった。
「上手くなったな~。」
「でしょっ!?」
「うん。すごい。」
正直感心した。
朝からたった数時間でここまで上達するとは思ってなかった。
「とりあえず、ご飯食べちゃおうよ」
彼女の上達ぶりを早く皆に見せたかった。
席についたいつもの友達は、さっそく彼女の指に気がついたようで、
「うわっ」
と声をあげた。
彼女は嬉しそうに、
「上手くね?上手くね?」
と指を見せた。
「…あ、これ描いたのか!え、すごーい!!」
彼女は満足げな表情をしていた。
(…それにしても…。)
毎時間見ていたから気が付かなかったが、今や彼女の左手は傷だらけに見えた。
「…ひどいな…(笑)」
私が笑うと、彼女も意味に気づいたようで、苦笑いを返した。

昼食を食べ終わってからの彼女は、会う人会う人に『作品』を見せて、驚かせては喜んでいた。
年寄りくさいかもしれないが、私はそんな彼女を微笑ましいと思いながら、日の当たる暖かい窓際で見ていた。

しかし。
放課後に担任の先生に見せたときの
「わっ!?大丈夫!?保健室行ってきなさい!」
という慌てぶりには、流石の彼女も罪悪感を覚えたアキコマ純情。



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